承.


 「そんなの嘘よ。そうでなかったら、夢でも見たのだわ。だってあり得ないもの、忍者がいただなんて」

  カナちゃんは腰に手を当て、ぷりぷり怒ったように言う。

 「だってそうじゃない。忍者はね、武士やゲイシャと一緒にとっくの昔に滅んでしまったのよ。常識じゃないの。ネッシーだのビッシーだの、恐竜を探すのと同じくらい非現実的だわ。それがよりにもよって、あなたの家に住んでたですって? 寝言は寝てから言うものよ」

  その言い方に、カチンときた。
 確かに、カナちゃんは頭が良くって、勉強の成績もクラスでいつも一番で、カナちゃんの言うことはいつも正しい。けれど、それを鼻にかけたような言い方が、鼻持ちならなかったのだ。

 「でも、これはほんとに、ほんとの話なんだよ。そりゃあ、ぼくだって最初は疑ってたぐらいだし、カナちゃんの疑う気持ちもわかるけど――でも夢や、ましてや嘘なんかじゃないんだよ! ねえ、ぼくが今まで嘘ついたことなんてなかったでしょう?」

 「そうね、たしかに、嘘がつけるような人じゃないものね、あなたは。馬鹿正直っていうのかしら? でも、やっぱり信じられないわ。だって、忍者がいるだなんて話、今まで聞いたことがないもの」

 「そりゃあ、カナちゃんの疑う気持ちも分かるよ。というか、ぼくだって正直言うと、なんだか狐につままれたような、フに落ちない感じがするけれど――でも、それじゃあ、おじさんの言うことが嘘だって、どうして決めつけてしまえるのさ」

 「それは、だって、非現実的じゃないの! 考えてもみなさい。忍者を見ただなんて話、今まで聞いたことが、ただの一度でもあった?」

 「それは、だって、ニンジャは、隠れて暮らすのが仕事なんだよ。そうかんたんに見つかるはずないよ」

 「じゃあ、どうしてあなたに見つかったのよ。ただの子どもの、あなたなんかに」

 「ニンジャさんはぼくん家に十年間も住んでたんだよ! 今まで、ぼくに見つからなかったことの方が不思議だよ」

  ぼくは、もう、ほとんど意地になって叫んでいた。

 「……怪しいわね。やっぱり、信じられないわ。でも、あなたが嘘を言うなんて考えられないし」

  カナちゃんは、両手を組んで、その上に顎を乗せ、うーんと唸った。それは予想通りの反応だ。

 「やっぱり、そう言うだろうと思ったよ。――だから、学校にくる間じゅう、ずっと考えてたんだ。どうしたら信じてくれるかって」

 「とっておきの話をしてあげる。これは、本当はぼくと忍者さんだけの秘密なんだけど、カナちゃんにだけ特別に教えてあげる」

 「秘密の話?」

 「誰にも言っちゃダメだよ。ニンジャサンのことは、ママにだって秘密にするように堅く口止めされてるんだ。だから、これはほんとうに秘密の話なんだ」

 「ええい、いらいらするわね。もったいぶってないで、さっさと話しなさいよ!」

  耐えかねたように声をあげる。それを聞いて、ぼくは思わずにやりと笑った。

 「きっと信じてもらえると思うよ。これから話すのは、嘘どころか、ぼくなんかが思いもしないような、途方もない話なんだから」

 早く言いなさいと無言で訴えるカナちゃんに、なおももったいぶってみせる。

 「それは、<<秘密の部屋>>のことなんだ」

 「<<秘密の部屋>>ですって?」

 ずいと覗き込んでくるカナちゃん。その瞳に、キラキラ瞳を輝かせるぼくの姿が映っていた。



 



       ◆      ◆      ◆



 

 「ここが、おじさんの隠れ家さ」

  おじさんに案内された先は、壁の中だった。

  掛け軸の下は隠し扉になっていて、薄暗い階段が、ほんの数段だけ続いていた。そこを降りていった先は、小さな部屋になっていた。背の低い、正方形の間取りの、それはそれは不思議な部屋だった。

 「うわぁ、すごい! ほんとうに、秘密基地みたいだ!」
 
 と思ったのは、床から天井にいたるまでのあらゆる部分が、黒光りする金属の壁で覆われていたからだ。四角い部屋は、一面金属の壁で覆われていて、それはまるで金庫のようだった。

  それを殺風景だと思わなかったのは、金属の床を隠すように、様々な調度が置かれていたからだ。布団や机といった家具から、マンガやテレビといった娯楽品から、なにからなにまで。それは、キャクマに置かれていたはずの物たちだった。

 「その通り。ここにあるのは全部あの客間というか、物置にあったものたちだよ。放っておくも勿体ないから、おじさんがありがたく使わせてもらってるのさ」

 「とくに健康器具なんかありがたいよ。ずっと部屋の中にこもりっぱなしだと、とかく運動不足になりやすくってね。まったく、忍者も楽じゃない!」

 はは、と苦笑するおじさん。そこに、ピーッという電子音が割って入る。

 「おっと、お茶が湧いたようだね。はい、どうぞ」

 ぬくぬくの湯呑みが差し出される。それは、冷蔵庫から取り出した水を、電子ポッドで沸かして作ったものだ。冷蔵庫や電子ポッドは、ぐぉんぐぉん唸り声をあげる発電機に繋がれている。この狭い空間には、人が暮らしていくために必要なものが一通り揃っているのだ。

 「すごい。本当にここで暮らしてるんだ」

 「ん? 何か言ったかい?」

 がんがんコンポを鳴らしてマンガを読んでいたオジサンが振り返る。もちろん、それらはキャクマから拝借してきたものだ。コンポと発電機の騒音に負けぬよう、ぼくは声を張った。

 「でも、よく今まで、バレなかったね。結構うるさいよ、この部屋」

 「大丈夫だよ。この部屋は、とても厚い金属ですっぽり囲まれているからね。音なんか、外に漏らしやしないさ。試しに、扉を閉めてごらん」

  指差す先には、ぼくの拳がすっぽり入ってしまうような、ぶ厚い金属板があった。それが、穴の向こうのキャクマに向かって伸びている。

 「ひょっとして、これのこと?」

  どうやら、それは押し戸らしかった。ハンドルみたいな取っ手を力いっぱい引くと、ぎぎぎ……と重い音をひきずって動き出す。ゆっくり弧を描いて、扉は閉じた。

  その途端。
 四方を塞がれた部屋中に、音という音が跳ね回った。たった一台のコンポが聖歌隊のような重奏をかなで、たった一台の発電機がうぉーんと奇妙な駆動音の共鳴音を発した。

 「この部屋の音は、完全に遮断されてしまうんだ。だから、音が外に漏れて、誰かに見つかるなんてことは絶対にないんだよ」








       ◆      ◆      ◆

 



 「ね、すごいでしょう? 壁が隠し扉になっていて、その向こうに、こんな変わった部屋があるなんて! ぼくなんかじゃとても思いつけないよ」

 「……ええ。こんな細かい嘘、あなたがつけるはずないわ。あなたは確かに、嘘なんて言ってない。それは分かるわ。なんだけど、なんと言ったらいいのかしら。いまひとつ腑に落ちないのよね……」

  カナちゃんは、何事かごにょごにょつぶやくと、うつむいてしまった。指を組んで、その上に顎をのせて、じっと考え込む。どうやら、すっかり思案に没頭してしまったらしい。いくら呼びかけても、うんともすんとも答えない。

  そのときだ。
  頭上から、ぼくの名を呼ぶ声が降ってきたのは。

 「やぁ、朝間クン」

  見上げると、そこには先生が立っていた。
  先生は大きい。大人の人は皆大きいのだけれど、先生はそのなかでも輪をかけて大きかった。先生と目を合わせるには、見上げなくてはならず、それは首がとても疲れることだった。なので先生はいつも腰を下ろして、ぼくのところまで頭をもってきてくれるのだ。けれど何故か、今日に限ってそうする気配はなかった。はるかな高みから、じっと、ぼくを見下ろして、にこにこ笑っている。

 「何かご用でしょうか、先生。わたしとユウは話をしているところなんですけど」

 「ああ、ごめんな昼部。先生は今、朝間クンと話がしたいんだ。ちょっとあっちに行っててくれるかな?」

 「それは、わたしがいると不都合な話なのでしょうか?」

 「不都合というか……先生は、飼育委員としての朝間クンに用事があるからね。飼育委員でない晩生内には、あまり関係のないことなんだよ」

 「先生、わたしは学級委員です。クラスの代表として、その場に居合わせる義務があると思います。それに、友達ですから」

 「……そうだな。そこまで言うなら、いても大丈夫か。朝間クン。朝間クンはいい友達を持ったなぁ」

  先生はちょっと考えて、やがてカナちゃんの言葉に嬉しそうに頷くと、ぼくの手を取って立ち上がらせた。ゴツゴツした大人の指が、ぼくの手をぎっと握りこむ。

 「ここで話すのもなんだ。ちょっと、あっちに行こうか」

  先生の大きな背中の影から、クラスメイト達が何事かとこちらを見ている。そういった視線から、ぼくを引き離そうとしているのだと、なんとなく、ぼくは直感した。

 

 

 「さぁ、入るんだ」

  そうして連れてこられたのは、資料室だった。
  そこは、普段は鍵がかかっている部屋で、ぼくたち生徒の間では立ち入ることのできない<<開かずの間>>として呼ばれている部屋だ。こうして実際に足を踏み入れてみると、そこは、ほんとうに全く人の立ち入らない場所なのだということが分かった。うすぐらい床には埃が積もっていて、歩くとぶわっと綿のような埃が、かび臭い部屋じゅうに舞い上がるのだ。
 「まあ、汚い!」とわめくカナちゃんに続いて入ってきた先生が、後ろ手にドアを閉めた。

  カチャリ

  と鍵の閉まるがする。
  びっくりして振り返ったぼくは、思わず口をつぐんでしまった。先生が、なんとなく不吉な影を背負って、じっと、ぼくを見下ろしていた。先生の瞳の中にわだかまる何かが、そう直感させた。それでも、顔はにこにこ笑顔のままで、それはどこか、能面のような、作り物めいた不気味な笑顔だった。

 「先生?」

  たまりかねて尋ねたカナちゃんには目もくれず、先生はぼくに迫ってきた。そのように見えたのは、腰を屈めて顔を寄せて、山のように高くにあった先生の顔が、ぐっと近くに降ってきたからだ。そのままぼくの肩をがしと掴み、鼻息がかかるくらいまで顔を寄せてくる。つんと煙草の臭いがする。

 「なぁ、朝間クン」

  先生は、優しげな声でいった。ぼくは、なぜか、北風に撫でられたときのように、肌がぞっと粟立つのを感じた。

 「飼育委員のキミに見せなきゃならないものがあるんだ」

  先生は、部屋の奥を指差した。埃まみれの机がそこにあって、その上に、見慣れた水槽が置かれている。

 「ダニー!」

  その中にいたのは、クラスで飼っている白ネズミのダニーだった。
  ダニーの世話は、主にぼくがしている。クラスの皆は、好き勝手に餌をやったり触ったりしているけれど、水槽を清潔に保ったり季節に合わせて綿敷を替えたりといった、もっとも重要な仕事はぼくがこなしている。もし飼育委員のぼくがいなければ、ダニーは今の半分も生きてはいかれないのだという自負があった。

 「先生、ダニーがどうかしたんですか?」

  ダニーは小さく丸まって、眠っているようだった。

 「見てごらん」

  先生は、水槽を横にたてらかした。すると、ダニーはだんごみたいに丸まったまま、ころころ転がって壁にぶつかった。ダニーは、みじろぎひとつしなかった。

 「やだ、死んじゃってるじゃないの!」

 「ええっ!?」
 
 よくよく見ると、ダニーはただ丸まっていたのではない。奇妙に手足をよじった格好で、力なくこときれていたのだ。

 「ほんとうだ。死んじゃってる……。どうして、こんな……」

 「このビニール袋に覚えはないかな。ダニーの水槽は、この中に入っていたんだけれど」

  ガムテープに口を縛られたビニール袋を取り出した。そのお腹には、そこから水槽を取り出したのだろう、大きな穴が空いている。ぼくは、その袋に見覚えがあった。
  先生は、じっとぼくを見据えている。

 「それなら、ぼくがしました」

  ぼくは、訳がわからぬまま、ほとんど反射的に答えていた。

 「温かい空気が逃げるといけないと思って、ビニール袋で包んだんです。ほら、最近、めっきり寒くなってきたから。それで、隙間があるといけないと思って、ガムテープでしっかり口を閉じて――」

 「この馬鹿たれが!」

  何が起きたのか分からなかった。

  それまで、にこにこ笑顔だった先生が、突然、般若の形相になって、怒声を張り上げていた。かと思うと、目の前が一瞬まっしろになって、「きゃあ!」とカナちゃんの悲鳴が聞こえた。
  頬がじんと熱い。先生にぶたれたのだ。突然の理不尽な仕打ちに、なにより、突然怒りだした先生の恐ろしさに、ぼくは訳もわからず、呆然と立ち尽くしていた。

 「そんなことをしたら、空気がなくなって、死んでしまうに決まってるじゃないか。よぉく見るんだ、お前のしでかしたことを」

  先生は、ごつごつした大きな掌で、ぼくの頭をまるでバスケットボールかなにかように、乱暴に掴む。そして、ぐりぐりとダニーの水槽に、ぼくの頭を押し付けた。

 「いたい、いたいよ……!」

  頭がまっしろになって、もう何も分からず、ただただ、ぼくは喚いていた。それでも、先生は容赦しない。

 「痛いだと? ダニーのほうが、もっとずっと苦しい思いをしたんだ。見てみろ、この傷跡を!」

  プラスチックの半透明の壁には、幾筋ものひっかっき傷が走っていた。

 「ダニーがやったんだわ。息苦しくなって、たまらずかきむしったのね」

 先生は、ぼくに顔を寄せてきた。煙草の臭いが、つんと鼻を突く。先生の、いつも優しそうに垂れたまなじりは、このときばかりは般若のようにつり上がっていて、冷たくぼくを見据えている。

 「朝間。お前が殺したんだよ、ダニーを。それも、最も残酷なやり方で」

 「そんな……」

  それまでまっしろだった頭に、ぼんやりと、理解がきざしてくる。そこではじめて、ぼくは、自分のしでかしたことを理解したのだった。

 「ぼくが、ぼくがダニーを殺しちゃったんだ……」

  恐怖と罪悪感とで、目の前が真っ白に滲んでいった。

 

 


  そうして、帰り道。

 「今なら分かるよ。ぼくがどんなにか馬鹿で、そして、カナちゃんの言うことは正しいんだって」

 ぼくは猛省した。カナちゃんの言うように、ぼくは「世間知らずで常識がない」のだ。だから大切なダニーを、それも最も残酷な方法で殺してしまったのだ。 ぼくは猛省して、そしてようやく素直に認めることができた。

 「だから、カナちゃんの言うとおり――あの人はきっと、ニンジャなんかじゃないんだ」

 「当然じゃない。今までただの一度だって、わたしが間違ったことを言ったことがあった?」

 腰に手を当て、さも当然といった調子のカナちゃん。

 「わかってるよ。カナちゃんの言うことはいつも正しいんだ。それが悔しかったから、一度だけでもカナちゃんをあっと言わせてみたいと思ってたから、あんな見えすいた嘘をすっかり信じ込んじゃったんだ。ほんとうは、そんなことあるわけない、ニンジャなんていやしないって、とっくに分かってなくちゃいけなかったんだ。というか、本当はちゃんと分かってたんだ。けれど、変に意地になって……。ぼくがそんなだから、ダニーをこ、ころ、殺しちゃったんだ」

 「ほんとう、しょうもない子ね、あなた」

 カナちゃんは、声を殺して泣くぼくの頭をくしゃくしゃに撫でまわした。

 「ダニーのことはしょうがないわ。すんだことだもの。でも、忍者の方はそうじゃないわ。まだ、手遅れじゃない。でも、このまま放っておいたら、ほんとうに取り返しのつかないことになるわ。今度はあなたや、あなたのお母さんが殺されるかもしれないのよ」

 「えっ」

 あまりに突拍子のない話に、ぼくは言葉を失った。

 「わたし、分かってしまったのよ。そいつの正体が」

 キョロキョロ辺りを見回して、人のいないのを確かめると、カナちゃんは、ずいとぼくに顔を寄せてきた。

 「いい? 耳を貸して」

 そして、驚くべき《真相》を告げたのだった。

 

 

 「そんな、まさか、そんなことが……」

  カナちゃんの話は、衝撃的なものだった。あまりのショックに、ぼくは、呆然と立ち尽くしている。

  そのとき、プファン、とクラクションの音がした。
  すぐさま、するすると黒塗りの車が滑ってきて、かと思うと、ガチャリとドアが開いて、そこから、杖をついたおじさんが降りてきた。ひょこひょこ足を引きずりながら、ぼくらの方に向かってくる。
  その口許が、にわかにほころんだ。

 「やぁカナ。それに、ユウくんじゃないか」

 「お父さん!」

  カナちゃんが大輪の笑みを咲かせた。そのおじさんは、カナちゃんのパパだったのだ。

 「どうしたの、今日のお仕事はもうおしまいなの?」

 「ああ、そうだよ。家に帰るついでに、カナを拾っていこうかと思ってね。そしたら、ユウくんがいるじゃないか。というわけで、挨拶にうかがったのさ」

  ぼくに向き直ると、軽く会釈した。

 「やぁ、ユウくん、久しぶり。カナがいつもお世話になってます」

 「ちょっと、わたしがいつ、こいつの世話になったって言うのよ」

  ぷりぷり怒るカナちゃんを見て、おじさんは口元をほころばせて笑った。仲むつまじい親子の、ほほえましい光景だった。
  それを見るうちに、さっきまでの憂鬱な気持ちも、驚きも、吹き飛んでしまって、気がつけば、すっかりいつもの調子に戻って、ぼくはカナちゃんに耳打ちする。

 「カナちゃんのお父さんって、お金持ちのシャチョーサンなんだよね。格好いいなぁ」

 「当然よ。だって、あたしのパパだもの」

  カナちゃんは、誇らしげに頷いた。

 「そうだ、ユウくん。お母さんは元気でやってるかね?」

 「うん。今日も元気に出張してるんだ」

 「ユウくんも大変だね。お父さんがいないなんて、寂しいだろう」

 「えっ、そんなことないよ。というか、そんなこと、思ってもみなかった。ぼくのパパは、ぼくが産まれるちょうど前から行方不明で居ないから――だから、寂しいとか、そういうのは全然ないんだ。それに、ぼくはママが大好きだから」

  そう答えると、カナちゃんのお父さんは、雷にうたれたように震えた。

 「ユウくんはよくできた子だ! どうだい。もし良かったら今日、家に泊まっていかないか? どうせ、しばらくは家で一人ぼっちになるんだろう?」

  ぼくとカナちゃんは、雄弁な目配せを交わせ合った。
  今のぼくにはやらねばならないことがあったのだ。

 「せっかくですけど、ぼく帰らないと。ちょうど今日から、ママが出張でいなくなるから。家の留守はぼくが守らなくちゃならないの」

 「そうかい。ユウくんは立派だなぁ。でも、そうか、それじゃあ仕方ないなぁ。人恋しくなったりしたら、またいつでも我が家においでよ」

  車上の人となったおじさんは、残念そうに別れを告げる。その隣で、カナちゃんは、念を押すようにじっとぼくをガラスごしに見つめていた。
  ぼくは頷きを返す。
  驚きも、困惑も、ダニーを殺してしまった罪悪感すらも溶けて消え、いつしかぼくの中には、固い決意が結ばれていた。

  ニンジャさんをこの手で殺してやるのだという決意が。

 

 

 

 

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